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歴史学はこう考える
松沢裕作
版元 筑摩書房 初版刊行日 2024/9/11 判型 新書 ページ数 288ページ 定価 1,034円(税込) ISBNコード ISBN978-4480076403 購入 Amazon
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愛好者・学者 対話ひらく
... 『歴史学はこう考える』は、歴史学がある立場の正当化に「役に立って」、際限のない論争を引き起こしてしまうことを懸念する。
これに対し、著者は結論への直感的な賛否ではなく、根拠と過程を理解する必要を説き、歴史学者が何をしているのかを丹念に示していく。前置きをし、史料を示し、その意味を説明する。もちろん論者によって関心は異なるが、それが史料という共通の対象とこの手続きによって結びつけられる。...清水唯一朗さん(政治学者・慶應義塾大学教員)
読売新聞(2024年9月29日)
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歴史家は何をしているのか
… 『歴史学はこう考える』は、スローモーションで動作をみるように、歴史家が歴史を書くとき何をしているのか、自ら一つ一つ解説した本で、類書はない。… 私たちは皆、実は歴史について日々何かを語っている。だからこそ、私たちは歴史についてきちんと言葉を交わしあう必要がある。それが可能な社会をつくっていくためにも、歴史家が何をしているのか、みんなに知ってほしい、そんな熱い願いが込められた一冊である。
佐藤雄基さん(歴史学者・立教大学教員)
朝日新聞(2024年10月26日)
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専門知のありようを言葉に
… 専門知に対する社会からの信頼はどのようにして得られるのか。それに対する本書の回答は、「手の内をさらず」というものだ。… 本書はこうして、歴史研究者の間で「暗黙知」となっているさまざまな前提を類書にはない徹底ぶりで言葉にしていく。…そうした専門知のありようが本書によって社会で幅広く共有されることを心から願う。
小野寺拓也さん(歴史学者・東京外国語大学教員)
日本経済新聞(2024年11月02日)
著者自身による著作解題
本書は歴史学を専門としない読者を念頭に書かれた歴史学方法論の概説書であるが、同時に、現在の人文・社会科学の状況に対する問題提起の書でもある。以下では、本書の紹介をかねて、背景となる学問の状況について若干の説明を試みたい。
世に少なくない「歴史学入門」あるいは「歴史学方法論」の書物のなかで、本書の特徴は二つある。第一に、歴史家の著作の実例に即して、そこで歴史家は 何をしているのか の説明を試みたことであり、第二に、そこで歴史家がやっていることと、歴史家以外の日常的な「過去の振り返り」との地続き性を強調したことである。
一点目については、本書の第2章では著者自身の論文「逓信省における女性の雇員と判任官」、第3章では高橋秀直「征韓論政変の政治過程」、第4章では石井寛治「座繰製糸業の発展過程」、第5章では鶴巻孝雄『近代化と伝統的民衆世界』をそれぞれ取り上げている。それらの研究で、史料がどのように引用され、そこからどのような論点が提示されているか、言い換えれば「引用と敷衍」のセットがどのように組み立てられているのを考えてみた。
二点目については、たとえば哲学者 J. L. オースティンの「本当の」 real / reallyという言葉の用法の分析(オースティン『知覚の言語 ――センスとセンシビリア』)に学びつつ、日常的に人が「本当?」と聞き返す場面と、歴史家が、いわゆる「史料批判」をおこなう局面との関係について考えてみた。
このような特徴をもった本書が書かれた背景の一つは、経済学はもとより、政治学・社会学などの社会科学諸分野において、自然科学を範とするいわゆる方法論の標準化、俗な言い方をすれば「サイエンス」化が隆盛の兆しをみせていることがある。著者は、以前から、かならずしも「サイエンス」化に収斂するわけではない歴史学の方法について何らかの形で説明する必要を感じていた。これに関連して、本書のなかでは、上に述べたような具体的著作の分析を通じて、人が「なぜ」という問いを立てたり答えたりするときに、いわゆる因果推論だけが問題とされているわけではなく、研究者それぞれが知りたいことに応じて「なぜ」という問いへの答え方も異なることを論じている。
また、歴史学の専門性と日常的な実践との関連といえば、「歴史実践」「歴史する」 doing history や「パブリック・ヒストリー」といった概念が、近年の歴史学およびその隣接分野ではしばしば話題となる。本書は(そうした論点とも接点は持つだろうが)、そうした議論で俎上の載せられることの多い、「歴史」(メディア・コンテンツ、博物館、ファミリー・ヒストリー、あるいは地域の歴史の「語り」etc.)よりも一歩手前のところ、事務的・実務的な場面で人は過去の記録を用いて行動していることに照準し、歴史家が「史料」として用いる文献も、作成者にとっては実務上の必要から作成され、また保存されてきたものである場合は少なくない(たとえば土地の契約書といったものはそうである)ことを強調した。
(松沢裕作)
目次
- はじめに ―歴史家は何をしているのか
- 第一章 歴史家にとって「史料」とは何か
- 1 根拠としての史料
- 2 記録を残す
- 3 記録を使う
- 4 歴史学と文書館
- 第二章 史料はどのように読めているか
- 1 史料の引用と敷衍――史料批判の前に
- 2 逓信次官照会を読む――「史料があること」が「何かがおこなわれたこと」を示す場合
- 3 新聞記事を読む――史料に書いてあることをどの程度疑うか
- 4 御成敗式目を読む――史料の書き手と歴史家の距離
- 第三章 論文はどのように組み立てられているか(1)―― 政治史の論文の例
- 1 歴史学の論文と歴史研究の諸分野
- 2 政治史の叙述――高橋秀直「征韓論政変の政治過程」
- 3 政治史叙述の条件
- 第四章 論文はどのように組み立てられているか(2)――経済史の論文の例
- 1 マルクス主義的経済史
- 2 経済史の叙述――石井寛治「座繰製糸業の発展過程」
- 第五章 論文はどのように組み立てられているか(3) ―― 社会史の論文の例
- 1 社会史のなかの運動史
- 2 社会史の叙述―― 鶴巻孝雄「民衆運動の社会的願望」
- 第六章 上からの近代・下からの近代 ―― 「歴史についての考え方」の一例
- 1 歴史についての考え方と時代区分
- 2 「近代」、このやっかいなもの
- 3 歴史研究との向き合い方
著者プロフィール
松沢裕作(まつざわ・ゆうさく)
1976年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程中退.博士(文学)。東京大学史料編纂所助手・助教、専修大学経済学部准教授をへて、慶應義塾大学経済学部教授。専門は日本近代史、史学史。
著書に『明治地方自治体制の起源』(東京大学出版会)、『重野安繹と久米邦武』(山川出版社)、『自由民権運動』(岩波新書)、『日本近代村落の起源』(岩波書店)、『日本近・現代史研究入門』(岩波書店、共編)などがある。
反響とリンク
- 2024.11.02
- 日本経済新聞書評欄に小野寺拓也さん(ドイツ近代史)による書評が掲載されました。
- 2024.10.26
- 朝日新聞に佐藤雄基さんによる書評が掲載されました。
『歴史学はこう考える』と 黒田祐我著『レコンキスタ』(中公新書)を二冊並べて取り上げたものです。
※朝日新聞社のWEBサイト 好書好日 にてWEB公開されました。
- 2024.10.25
- 哲学の劇場YouTubeチャンネルにて、『歴史学はこう考える』執筆進捗報告互助会について紹介する動画を作っていただきました。松沢裕作・酒井泰斗の二人でお邪魔しています。
- 哲学の劇場YouTubeチャンネル#209
エスノメソドロジー型データセッションの効用──松沢裕作『歴史学はこう考える』と非哲学の講義・哲学入門読書会を例に
- 哲学の劇場YouTubeチャンネル#209
- 2024.10.25
- 講談社『Kiss』2024年12月号(2024年10月25日発売)に掲載された 二ノ宮知子「七つ屋志のぶの宝石匣」93話で、主人公の志のぶが、『歴史学はそう考える』というタイトルの本を手にしているコマがありました。
- 2024.10.17
- 『歴史学はこう考える』【筑摩書房】刊行記念 松沢裕作さん×吉川浩満さんトークイベント
- 2024年10月17日(木) 18:30〜(18:10開場)、参加費無料
- 本会場: 紀伊國屋書店 新宿本店 3階アカデミック・ラウンジ (座席券の発行は終了しています。立ち見参加は可能です)
- サテライト中継会場: 紀伊國屋書店 新潟店 KUMONすくえあ
- 2024.10.10
- 「リアルサウンド ブック」にインタビュー記事が掲載されました。
「なにが歴史的事実かという議論になると、限りない泥沼に陥っていく──慶應大教授に聞く、歴史学のプロセスとその意義」
(文・取材=麦倉正樹、写真=石川真魚)
- 2024.09.29
- 読売新聞に清水唯一朗さんによる書評「愛好者・学者 対話ひらく」が掲載されました。『歴史学はこう考える』と池田さなえ著『笑いで歴史学を変える方法』を二冊並べて取り上げたものです。
※追記:10月4日に読売新聞オンラインにてWEB公開されました。
- 2024.09.11
- 刊行日にあわせ、紀伊國屋書店WEBサイトにて「『歴史学はこう考える』刊行記念 著者・松沢裕作さん選書フェア」がスタートしました。
①『歴史学はこう考える』に影響を与えた本
②『歴史学はこう考える』でとりあげた本
③ 歴史学にも歴史がある
④ 社会を知るためのさまざまな方法――『歴史学はこう考える』の隣にある本
⑤ 歴史学がやりたくなってしまったら……
の5点について、『歴史学はこう考える』執筆にあたって影響を受けた本や、『歴史学はこう考える』の中で実際に取り上げられている本などが選書されています。
松沢裕作 単著執筆準備作業進捗報告互助会
明治期の東京帝国大学史料編纂掛
(小川一真 編『東京帝国大学』 小川写真製版所、明治37年、
国会図書館デジタルコレクション)
趣旨
単著執筆へ向けた準備作業の進捗報告会への参加者を若干名募集します。
このプロジェクトは以下の成果物を以て完了しました。- 松沢裕作『歴史学はこう考える』(ちくま新書、2024年)
著者について
松沢裕作(まつざわゆうさく)- 慶應義塾大学経済学部 researchmap
- 主要研究業績
- 単著
- 『明治地方自治体制の起源』(東京大学出版会、2009年)
- 『重野安繹と久米邦武』(山川出版社、2012年)
- 『町村合併から生まれた日本近代』(講談社選書メチエ、2013年)
- 『自由民権運動』(岩波新書、2016年)
- 『生きづらい明治社会』(岩波ジュニア新書、2018年)
- 『日本近代社会史──社会集団と市場から読み解く 1868-1914』(有斐閣、2022年)
- 『日本近代村落の起源』(岩波書店、2022年)
- 共著
- 『大人のための社会科』(有斐閣、2017年。井手英策、宇野重規、坂井豊貴と共著)。
- 論文(本課題に関係するもの)
- 「明治太政官における歴史記述の模索 : 修史館編「征西始末」をめぐって」(『東京大学史料編纂所紀要』21、2011年)
- 「修史局における正史編纂構想の形成過程」(松沢編『近代日本のヒストリオグラフィー』山川出版社、2015年)
- 「統治の思想と実務 : 明治地方自治制研究と「政治思想史」」(『三田学会雑誌』114-3、2021年)
- 単著
著作の課題とスケジュール概要
作業タイトル
- 歴史学の方法
著作の課題
- 新書。ですます体で書く(編集者意見)。
- 歴史学者の仕事のありようを反省することを通じて、歴史学を専門としない読者(含研究者)に向けて、歴史学者の仕事のありようを、解説・紹介する。
- 「反省する」という契機を含むので、それ自体「歴史学者は自明に知っていることを、非専門家に紹介する」体裁にはならない。したがって、歴史学者に向けて「よくよく考えてみるとわたしたちはこういう仕事をしているのではないですか」という提示もおこなうことになる。
- 具体的な歴史家の著作になるべく即してそれをおこなう。哲学的基礎づけのような方法はとらない。
著作の章構成案(2022年9月4日 更新)
- 第1章 論文のかたち
- 第2章 史料はどのように読めるのか?(史料はどのように残るのか)
- 第3章 歴史家はどのように論文を組み立てているのか
- 第4章 歴史家が「近代」を問題にするとき
- 第5章 「上から」の歴史と「下から」の歴史
翻訳作業と進捗報告会のスケジュール概要
執筆と報告会の概要
- 進捗報告会のスケジュールと目標:
- 2021年1月開始。
- 2ヶ月に一回程度レジュメ形式で構想報告をおこなう。
2021年末には文章の形態に。
- 会場: 東京都港区&WEB
参加資格と参加申込
参加資格
- 学術論考の草稿、配布資料などの取り扱い作法を ご存知の方
- 他参加者に対して、エントリーメールにおいて丁寧な自己紹介を行っていただける方 (不十分な場合、参加をお断りしたり、著名人との自認がある方だと判断させていただくことがあります)
- 会の場において、ほかの参加者の意見をよく聴き、適切な受け答えの出来る方
- 構想・草稿などのブラッシュアップに貢献できる方
参加申込
- 本会の参加者募集は終了しました。